やる気がなさすぎる、怠け者のYくんの変化~その子が見ている世界をのぞいてみましょう~
やりたくないことは絶対にやらないYくんを
6年生で受け持ちました。
ノートをとらない
教科書を出さない
宿題はやらない
行きたくない移動教室はしない
無理に動かそうとすると癇癪を起こす
そんな引継ぎを受けました。
背が高く、
ぬぼーーーっとしていて…
4月のころは、
何を聞いてもあまり反応が返ってこない様子でした。
Yくんができるところに寄り添いながら、
怒ってみたり、
問いかけてみたり、
諭してみたり…
それはもうしつこく声をかけるうちに(笑)、
ちょっとずつちょっとずつ
やれることが増えてきたある日のこと。
1時間目が終わり、次の時間は理科。
子どもたちは、教室から理科室へ移動しなければいけません。
クラスのみんなはもうとっくに教室の後ろに整列しているのに、
Yくんはまだ自分の机のところでゆっくり準備をしています。
「Y---!!はやくしろよー!!」
「先生、Yくんいつもこうなんで、去年は置いて行っていいことになってたんですけど、いいですか??」
Yくんの様子を見てみると、
本当にゆっくりゆっくり準備を進めていて、
みんなの方には見向きもしません。
「今日はいいです。行ってください。」
みんなを見送った後、
Yくんに話しかけました。
「ゆっくり準備するのには、何か理由があるの?」
「・・・」
「授業には間に合ったほうがいい気がするけど、そのペースじゃ間に合わないね」
「・・・」
「遅れたほうがいいことがある?」
「・・・」
ぼそっとYくんが口を開きました。
「間に合わなきゃいけない理由はない。別に間に合わなくても困らない。」
「ああ!たしかに!Yくんは困らないね!」
元気に共感した私に、びっくりした様子で顔を上げるYくん。
「理科に数分遅れることで、たしかにYくんは何も困らない。
でも、遅れてくるYくんを理科の先生はどう思うかな?
いつも一緒に行かないYくんを、クラスのみんなはどう思う?」
「・・・」
「あーー。だらしないやつだなぁ。
いつもYくんって協力してくれないよねぇ。
って思うんじゃないかな。それはいいの?」
「・・・別に。」
「そうなんだ。Yくんはすごいね。
私だったら、自分のことをよく思ってくれる人を増やしたくなっちゃうなぁ。」
「・・・」
「だってさ。
人に協力しておけば、自分が困ったときに、協力してくれる人が増えるでしょ。
人が助かることをしておけば、自分を助けてくれる人も増えるでしょ。
だからさ。
人が喜ぶことをすることって、自分のためになるんじゃないかなって思うんだよね。」
「・・・」
少し、Yくんの表情が変わった気がしました。
「まぁ、人のために自分がつらくなってもしょうがないわけだから、無理をすることはないよね。
間に合って授業に行くことが、Yくんにとってつらいことなら、そのままでいいと思うよ。
間に合って授業に行くことって、Yくんにとって大変なこと?」
「・・・別に。」
「ふーん。やろうと思えばできることってこと?」
「・・・まぁ・・・」
「じゃあ、やったらいいのに。
Yくんがやろうと思うなら、応援するよ。
でも、やっぱり必要ないと思うなら、理科の先生に間に合う気がないことを伝えて、みんなに一緒には行かないことを伝えればいいね。
Yくんが選んだらいいよ。」
「・・・」
にっと笑うと、Yくんは何かを考えこむように、じーーーっと私を見つめました。
「よーく考えて自分で決めたらいい。
自分の生き方を決めるのは、自分だよ。」
数日経って、また理科の時間がやってきました。
なにやら考え込むようにじーっと席に座っているYくんに声をかけました。
「お??考えてるね!
んじゃ、とりあえず、一回やってみる??」
「・・・」
コクっとYくんが頷きました。
Yくんが動き出します。
引き出しの中から教科書を取り出して・・・
次にノートを取り出して・・・
的確にそれらの位置は把握しているようですが、とにかく動作がゆっくり。
まるで、スローモーションのようです。
表情は真剣。
ふざけているわけではなさそうです。
みんなが並び始めます。
こちらの様子をうかがっているようです。
私はこそっと声をかけました。
「Yくん!それじゃあ急いでいるように見えない!
もったいない!」
「・・・??」
「ものを見つけたら、すばやく動かすんだよ!
そうすれば、急いでいるように見える!」
教科書をさっと取り出す動作を横でします。
「・・・こう??」
「そうそう!!
こう!!
立ち上がるのも素早く!
こう!!」
ガタンっと勢いよく立ち上がった私を見て、Yくんが真似をします。
その様子を見ていたクラスの子たちから、声があがります。
「おお!!Yが急いでる!!」
私は続けます。
「はい!!列に早歩きで加わる!
もっと!足を速く動かす!
そう!!
Yくん!それなら急いでいるように見えるよ!!」
私について素早く列に加わったYくんに歓声が挙がりました。
「6年4組全員そろった!しゅっぱーつ!!」
「あと一分だから、全力で早歩きするよー!!」
私がクラスに声をかけると、Yくんがボソっとつぶやきました。
「早歩きって、教師が勧めていいんですか??」
「Yくん、いいですか??
今大事なのは、安全を守りながら、全力で急いでいるように見せることで、理科の先生の好感度をゲットすることです。」
Yくんが吹き出して、すごくいい顔でにっと笑いました。
それからも、私とYくんの「〇〇しているように見せる練習」は続きました。
クラスのみんなも応援してくれました。
Yくんが授業に遅れることはなくなりました。
まもなく・・・
Yくんがやらないことは、なくなりました。
Yくんは、これまでも、「別に、急いでいるつもり」だったのかもしれません。
でも・・・
「急いでいるように見えなかった」ので、「何をやっているんだ」と責められ続けてきたのかもしれません。
そのうちに、どんどんやる気がなくなって、「もういいや」とあきらめてきたのかもしれません。
もともとやる気がなかった子なんていない。
どうしてやる気がなくなってしまったのか。
やる気をなくすことで、その子が得ているものは何なのか。
その子が見ている世界はどんな世界なのか。
どんなときも寄り添うことで、その子が本来もつ魅力が溢れてくる。