卒業式でお母さんにありがとうを言いたい~Sくん奮闘記~
Sくんは、とにかく明るくてお調子者の男の子。
いつもクラスを楽しく盛り上げるムードメーカー的な存在でした。
こつこつと何かを続けていくのは苦手。
でも、新しいことにどんどん挑戦していく、行動力と発想力をもった子でした。
そんなSくんが、卒業式の1か月前くらいから、なんだか落ち着きがない様子で…。
イライラしていて、いつもの明るい感じがない。
「どうしたの?」
聞いてみると、
「俺だめなんすよ。自主学習を卒業式まで絶対続けるって言ったのにできないし、バスケの練習を学校来る前に毎日やるって言ったのにできないし…。」
やると言ったことをできない自分に、イライラを募らせているようでした。
休み時間に話したり、日記を通してやり取りをしたりする中で、S くんが本当にしたいことが見えてきました。
それは、卒業式1週間前のこと。
「何か焦ってるように見えるけど?」
私の問いかけに、Sくんがポツリポツリと話し出しました。
だってさ。母さんに言われたんですよ。
やるやるって言ってどうせ何もやらないって。
最近、母さんを怒らせてばっかでさ。
ケンカばっかりなんですよ。
俺だって、卒業式ぐらい、いいとこ見せたいですよ。
卒業式までにはこれができたぞって言いたいし、ありがとうとか、言った方がいいかなって思ってるんですよ。
なんと……
卒業式までには何かをやり遂げて、お母さんにありがとうが言いたい✨
それが、Sくんが本当にやりたいことでした。
「今までに、これができたぞーって思ったことで、お母さんに褒められたことある?」
「ある!たくさんある!」
「それってどんなことだった?」
そのとき、Sくんの表情がパッと明るくなりました。
「何かできるようになったときは、いつでも褒めてくれるわ。そっか!何でもいいんかも!なんか探します!」
それから数日がたった、卒業式三日前。
S くんが私のところに駆け寄ってきました。
「あった!先生、あった!!」
音楽の時間に、音楽の先生から紹介された和楽器。
音を出すには、かなりの肺活量とコツが必要とのこと。
音を出すのは、大変難しいということを紹介されたとのこと。
「俺、それの音を出してみせる!!」
S くんと一緒に、音楽の先生に頼みに行きました。
音が出るようにがんばりたいこと、そのために和楽器を貸してほしいことを伝えました。
先生は、快く承諾してくださいました。
卒業式当日。
教室に入ると、満足気な S くんの笑顔が待っていました。
手には、でっかい和楽器がしっかりと握られて……
「がんばったので聞いてくださーい!」
Sくんがそう言うと、
「おおーー!!がんばれー!!」
自然とクラスのみんなの歓声が湧き上がります。
力いっぱい息を吸って………
ブオオオオオオ❗❗❗❗
その音の大きさに、みんなびっくりして大笑い。
拍手が湧き起こります。
S くんも笑いながら満足そうでした。
卒業式の後。
「先生、見てて」
Sくんが声をかけてくれました。
「こんな俺だけど、育ててくれてありがとう。」
照れくさそうに、お母さんにお礼を言うS くん。
お母さんの涙。
私も思わずもらい泣きしてしまいました。
これからも、 S くんは、新しいことにどんどん挑戦し、自分の可能性を広げていくことでしょう。
その子が本当にやりたい事を一緒に探して応援できる、教師という仕事に、改めて喜びを感じた瞬間でした。
Sくん、楽しい時間をありがとう。
ずっとずっと応援しています。