みかん先生はくじけません

教育革命家。未来学園HOPE学園長。しあわせ先生塾主宰。元小学校教師。平本式現場変革リーダー養成サブ講師。DoMaNNaKaマスタートレーナー。日本プロカウンセリング協会二級心理カウンセラー資格。教育についてのいろいろを綴ります。

アスペルガーの子が教えてくれたこと~「分かる」と「信じる」の違い~

 

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 2年前のこと。

 

「先生、みんながぼくの悪口を言っています。

 さっきも、YくんとTさんがぼくのことを指さして笑いました。」

 

Mくんがこう訴えてきたのは、2学期の中ごろでした。

 

Mくんはイケメンで頭もよく、スポーツもできる、大人しい子。

悪口を言われる対象にはなりにくい子でした。

さいころアスペルガーと診断をされていました。

 

 

私は、すぐに事実確認を始めました。

 

YくんとTさんに話を聞いたり、みんなに聞いてみたりしたのですが、どうしても、Mくんへの悪口が事実として挙がってきません。

無記名でクラスのみんなにアンケートをとったり、その場に居合わせた他のクラスの子たちにも聞いてみたり…

あの手この手を尽くして調査してみたのですが…何も出てこない。

 

だれも、悪口なんか言っていないのです。

 

「Mくん、みんな悪口なんか言っていないよ。」

「でも、確かに聞こえたんだ。みんなぼくが変だと思ってるんだ…。ぼくはうそつきじゃない。」

Mくんの目は、涙でいっぱいになっています。

 

「Mはアスペルガーだから、人の心が分からないんですよ。言葉の裏が読めないから被害妄想が広がっちゃってるみたくて…。家でもよく分からないことを言うんです。」

お母さんも困った様子でした。

 

クラスのみんなにお願いして、Mくんの素敵なところを伝える時間をとったり、

「Mくんの悪口なんて言っていないよ。不安にさせちゃってごめんね。」

子どもたちから直接Mくんに伝えてもらったり…

 

あの手この手を尽くしましたが、Mくんは首を横に振り続けました。

 

 

自分にできることは何だろう…?

 

アスペルガーについての書籍を読み漁りました。

Mくんは「発達障害の二次障害」と言われる鬱的な症状を発症しているようでした。

 

 

私が見つけた答えは、1つ。

 

とにかく寄り添って聞き続けること。

Mくんの見ている世界を、私も一緒に見てみよう。

 

 

お母さんに許可をいただいて、とにかく毎日聞き続けました。

 

放課後、みんなが帰った後、毎日毎日、何時間でも。

Mくんが話しきるまでずっと聞き続けました。

Mくんは聴覚情報が苦手だったので、話している内容を紙に書きだして一緒に見て、整理しながら聞くようにしました。

 

 

「宇宙人がこのクラスを洗脳しようとしてる。先生のことも狙ってる。クラスのみんなはもう洗脳されてるんだ。」

 

こんなことを言い出しても、そのまま聞き続けます。

 

「ええ!!そうなんだ!!狙ってるってどんな感じ?結構深刻な感じ?」

「いや、まだそんなには深刻じゃない。」

「そうなの?じゃあ、先生は、装備とかはまだしなくていい感じ?」

「うん…。装備はいらないかな。」

「相手の目的は何なのかな?」

「それがはっきりしなくて…」

「何か対策としてできること、あるかな?」

「わからない…またひどくなりそうだったら、言います」

「そっか。よろしく頼んだ。」

 

毎日、最後にこう伝えるようにしました。

「話してくれてありがとう。全部信じるから。また話してね。」

 

表情は、次第に柔らかくなっていきました。

毎日だった放課後の時間は少しずつ少なくなっていきましたが、卒業式の直前まで続きました。

 

 

卒業式前日に、Mくんが手紙をくれました。

 

先生、分かりました。

人は人の気持ちなんか、一生理解できない。

だから、相手が考えていることなんて、一生分からないし、ぼくが考えていることも、一生だれにも分からないことが、分かりました。

でも、ぼくには、信じられる人が何人かいるので、大丈夫です。

気持ちが分からなくても、分かってもらえなくても、信じることはできることが分かりました。

もう大丈夫です。

中学校でもがんばります。

ありがとうございました。

 

 

手紙をもらって、うれしくてうれしくて、Mくんのところに飛んでいきました。

 

「その通りだと思う!!

 このことが、小学校6年生の段階で分かったあなたは本当にすごいと思う!!

 感動した!!ありがとう!!」

 

そのとき見せてくれたMくんの笑顔が、本当にすてきでした。

 

 

アスペルガーと呼ばれる子たちの感覚は、とても繊細です。

「分かっているつもり」のもどかしさを、きっと彼は小さいころから感じていたのでしょう。

「なぜ分かってもらえないのか」、悲しくてしかたなかったのでしょう。

きっと、彼には宇宙の様子も見えるのです。

Mくんの見ている世界を、分かることはできない。

でも、分かろうとすることはできる。

そして、その世界を信じることはできます。

 

「分かる」ことと「信じる」ことは違う。

 

Mくんが教えてくれました。

 

簡単に、分かったつもりにならないこと。

分かろうとする努力を怠らないこと。

その子の可能性を、信じて応援すること。

 

Mくん、ありがとう。