反抗的な子どもと対峙するということ~その子の心の叫びを受け止めよう~
あれは、4年前。
私が6年生の学級経営をうまくできるようになった、始めの年のこと。
(6年生は、学級経営が一番むずかしいです。)
この年は、充実感や達成感をたくさん味わえた年であり、同時に、大きな課題に向き合った年でもありました。
「もしもこの子が学校に来られなくなったら、私は今年で教師を辞めよう」
課題と向き合う中で、そう腹をくくった年。
その子が、Hくんです。
5年生までかなり反抗的で、学校に来ない時期もちょこちょこあったというHくん。
先生という存在が大嫌いで、かげで先生の悪口を言いまくる子。
だから、「かなり扱いが難しい」と引継ぎを受けた子でした。
ところが。
受け持ってみると、Hくんは、とっても素直でがんばり屋で優しい子でした。
私はすぐに、Hくんのことが大好きになりました。
3学期の2月ごろまで、私はHくんが問題児だったということすら、すっかり忘れていたほどでした。
2月の終わりごろから、
「勉強やだ。めんどくさい。」
そう言いだしたHくん。
放課後一緒に勉強したり、声をかけたりしてみたけれど、Hくんのやる気はどんどん落ちていって…
3月ごろには勉強することを本気で嫌がるようになりました。
「ちょっと話そうか。」
そう声をかけて、放課後2人になった瞬間、Hくんがキレました。
「うるせーんだよ!!お前ムカつくんだよ!!」
泣きながら、机やいすをなぎ倒しながら…
「みんなうるせーんだよ!!死ね!!みんな死んじゃえ!!」
Hくんの悲鳴に、私はびっくりして言葉を失いました。
次の日も、その次の日も…
Hくんは、放課後、暴れ続けました。
「調子に乗ってんじゃねーよ!!お前なんか死んじゃえ!!」
そう叫びながら、顔を真っ赤にして泣きながら、机やいすに当たり続けました。
私は、それをただただ聞きながら、一緒に泣くことしかできなかった。
でも、どうしても放っておいたらいけない気がして、私は毎日放課後、Hくんとの時間を取り続けました。
Hくんの言葉が胸に刺さって、毎日吐き気がしました。
無力な自分に嫌気がさしました。
その中で、自分に何ができるか必死で考え続けました。
心理学の本を毎日読み漁りながら、Hくんの心を楽にするヒントを探し続けました。
私が当時、自分なりに出した結論は…
Hくんの怒りや苦しみを受け止め続けること。
そして、伝え続けること。
「私はあなたのことが大好きだ」と。
帰っていくHくんの背中に向かって、声に出して伝え続けました。
「私はあなたのことが大好きだからね。話してくれてありがとう!」
Hくんのお母さんは、女手ひとつでHくんとお兄さんを育てていて、とてもお忙しい方でした。
電話がつながるのはいつも夜22時を過ぎるころ。
お会いできるのは土曜日の午前中だけだと聞いて、お家に会いに行きました。
Hくんのお兄さんは、1月頃から精神的に不安定になり、お家の中で包丁を持ち出すようなこともあったのだそうです。
Hくんはその苦しみを、ひとりでずっと抱えていたのでしょう。
お母さんも、とても苦しんでいらっしゃいました。
お母さんと一緒に泣きました。
Hくんが学校を休むと、家に会いに行きました。
Hくんは決して出てきてはくれなかったけれど、クラスのみんなからの手紙をポストに入れました。
そのおかげかはわかりませんが、Hくんのお休みが連続するようなことは、ありませんでした。
卒業式の1週間ほど前のこと。
Hくんに手紙を書きました。
手紙はお母さんに託しました。
「Hくんと一緒に読んでほしい」
そう言って。
何を書いたか、内容はもう詳しくは覚えていないのですが…
Hくんのすてきなところを書きまくって書きまくって…
Hくんのお母さんのすてきなところを書きまくって書きまくって…
今後の人生を胸を張って生きていってほしいこと。
私にぶつかってきてくれて、うれしかったこと。
ずっとずっと応援していることを書いたように思います。
卒業式の日、Hくんが私に手紙をくれました。
ぶっきらぼうに投げるように渡してくれた手紙。
茶封筒に入っていて、中の便せんは何度も書き直したのかくしゃくしゃだったけれど…
うれしくてうれしくて、私は涙が止まらなかった。
ぼくは、先生のことはきらいじゃありません。
ひどいことをたくさん言ってごめんなさい。
全部そんなこと思っていません。
中学校ではちゃんとがんばります。
ありがとうございました。
正直、今の私ならば、もっと早い段階でHくんの状態に気づくことができたと思います。
今の私ならば、できることはもっともっとたくさんあった。
もっと心の底から元気にしてあげられた。
でも、このときの私がいなければ、今の私はない。
このとき精いっぱいできることをやりきった自分自身に、悔いはありません。
あとからこっそり、お母さんが教えてくれたこと。
あの子ね、昔から先生の悪口をずーっと言ってる子だったんですけど、みかん先生のことは、絶対に悪く言いませんでした。
卒業式の前日の夜。
がさごそ何か探してて、何かと思ったら、便せんはあるか?って…
めずらしく机に向かって、一生懸命書いてたんですよ。
あの子がつらいときに、私はあまり傍にいてあげられませんでした。
ずっと寄り添っていただいて、本当にありがとうございました。
Hくんが私に教えてくれたこと。
人には、どうやってもがんばれないときがある。
マイナスの言葉しか、出てこなくなっちゃうときがある。
でも、どんなときでも、根底にある叫びはみんな一緒。
ぼく、がんばってるよ。
ぼくを見て。
ぼくを分かって。
ぼくを愛してほしい。
手を大きく広げて、子どもたちの叫びを受け止められる人になりたい。
そう、心の底から思うことができるようになったのは、Hくんのおかげです。